2011年8月14日日曜日

チェン貨幣

英語 :Chiang money, Jiang money または Kakim money
タイ語:เงินเจียง または เงินขาคีม

ソース เงินเจียง


材質は銀、ラーンナー王朝で使用された。1世紀以上の長期に渡って一定の外形を保ち、タイ王国の北部、ラーンナー王朝、さらにはビルマ、ラオスで貨幣として用いられた。銀の含有率は貨幣重量の 85‐90% 程度で、貨幣ひとつづつにその鋳造場所が刻印されている。刻印には、セーン、ナーン、ルアン、ソーイ、ユワン、ロップファーンなどがある。各種の刻印からは、鋳造場所が10箇所以上存在していたことがわかる。また、チェン貨幣の側面にある刻印から、この種の貨幣が流通したのは400年以内であることもわかる。

チェン貨幣が都市により異なることは、支配地区名の刻印を観察すれば明らかである。しかし重量が 60-63g であることは共通しており、その価値は1タムルン(=4バーツ)に等しい。


チェン貨幣の刻印

チェン貨幣はスコータイの4バーツの重量を基準として鋳造された。両足には貨幣鋳造権者の記号と都市名が刻印され、末端にはチェン貨幣の貨幣価値が刻印されている。刻印の文字は、初期はスコータイ文字が使われていたが、後にはタイファクカーム文字 (อักษรไทยฝักขาม ランナー文字の前身) に置き換わった。

かつてのラーンナー王朝は50箇所以上の都市を支配していた。各都市は、決められた重量と外見を持ち両足に都市名を刻印したチェン貨幣を鋳造し、流通させることができた。ある複数の都市では同じ刻印を使用しており、これは親族関係にある人物が支配していたものと推測される。発見されるチェン貨幣の中で最も多いのは、刻印がチェンセーンとチェンマイのものである。この二つの都市は、かつてはラーンナー王朝の王都であった。


同一都市で鋳造されたチェン貨幣2個の比較。ただし刻印は異なっている。

本物のチェン貨幣には、片側に3つずつ刻印がある。刻印の大きさは同じくらいで、小さすぎることはない。


写真の左側にある刻印は、都市支配者の刻印である。王族の家系を継承しているかにより刻印は大きく異なる。

写真の右側にある刻印は、重量が4バーツ、すなわち1タムルンであることを示す。通常、足が2本のチェン貨幣は4バーツである。

真中にある刻印は、貨幣が鋳造された都市の名前を示す。例えば、「セーン」ならチェンセーンを意味し、「チョム」ならチェンマイ、ナーン、ユアンであり、「ルアン」ならルアンパバーンであろう。

訳注:ここ以外の情報にはルアンパバーンの記述がなく、かつてのラーンナー王国の支配はルアンパバーンまで及んでいないため、この記述は間違いかもしれない。チェンラーイの「ルアイ」と間違えた?


チェン貨幣の鑑定

現在、チェン貨幣を探すことは非常に困難である。市場におけるチェン貨幣の価格は、銀それ自体の価格の数倍になっているため、贋作を作り収集家を騙して販売する者がいる。純銀または大量のルピー硬貨をチェン貨幣と同じ4バーツに計量して、溶解して新しいチェン貨幣を鋳造し、模倣した刻印を両足に刻む (筆者はかつてチェン貨幣とルピー硬貨の銀純度を計測したことがある。その結果はほぼ同じ 90% であった)。


偽チェン貨幣の判別

複数の方法がある。基本的な方法は、重量と大きさを計ることである。これは特別な技量を必要としない。

次に有効な方法は、都市の刻印とチャクラの刻印の観察である。贋作はまだ完全に模倣できていない。市場に流通している本物の数が少ないために、贋作の進歩は非常に遅い。どれが本物でどれが贋作かを比較し、判別するにはそれなりの知識と経験が必要だが、一番良い方法は本物と並べることである。


切断と切込み

切断と切込みが、チェン貨幣が本物であることを証明する古代の方法だった。切り込みを入れることで、チェン貨幣の内部の材質を確認し、外側に銀メッキをしただけではないことがわかる。切り込みは、チェン貨幣の足に刻印を押した直後に、内部の材料を明らかにするために行われる。

筆者はこの部分をチェン貨幣の真贋を判断するために活用しており、それほど難しくはない。本来は切断により作られる切り込みの痕が、現代において鋳造されたチェン貨幣の贋作では、チェン貨幣の鋳造前から痕が作られている。つまり、切断または切り込みの目的を履き違えているわけだ。贋作のチェン貨幣では、切れ込み痕に鋭さがなく、また自然さに欠ける。本物の切れ込み痕は非常に鋭い。中央部の切れ込みは、チェン貨幣の側面、金属の表面にたった1回だけ強い力で刻まれる。下部の刻み目は、1回のみもしくは複数回刻まれる。

下側の表面付近に見られる、繊維の跡にも注目。この跡は各都市で使用した物質と溝掘りの方法によって異なる。下記に紹介する各都市のチェン貨幣から観察できる。


チェン貨幣の下側に「ルアン(ルアンパバーン)」の刻印がある。切断によってつけられた、このような痕跡がなければならない。


チェン貨幣の下側に「チョム(チェンマイ)」の刻印がある。切断によってつけられた、このような痕跡がなければならない。


チェン貨幣の下側に「セーン(チェンセーン)」の刻印がある。切断によってつけられた、このような痕跡がなければならない。


チェン貨幣の下側に「ソーイ」の刻印がある。切断によってつけられた、このような痕跡がなければならない。


チェン貨幣の下側に「ナーンまたはヌアン」の刻印がある。切断によってつけられた、このような痕跡がなければならない。


チェン貨幣の下側に「チョム(チェンマイ)」の刻印がある。切断によってつけられた、このような痕跡がなければならない。


大きさが半分のチェン貨幣

ときおり大きさが半分、もしくは足が1本しかないチェン貨幣を見かけることがある。これは、使用者が1/2タムルン=重さ2バーツ分だけ支払う必要があったことを意味する。重量は 29-32グラムで、その貨幣の状態により差がある。さらには、1/4タムルンのチェン貨幣が見つかることもある。これは1バーツ分だけ支払う必要があったことを意味する。


1/2タムルン=2バーツのチェン貨幣。チェンセーン製。


1/4タムルン=1バーツのチェン貨幣。


他の原料を使ったチェン貨幣

他の原料で鋳造された古いチェン貨幣は、素焼きまたは鉛で作られ、銀メッキはされていない。鋳造された目的は貨幣ではなく、結婚する新郎新婦への記念硬貨であったり、タイ北部で精霊へのお供え物であることが多い。ラーンナーの時代には、儀式を執り行ったチェン貨幣を家の塀と都市の外壁の中心に埋め、悪霊やお化けの危険を防ごうとする人もいた。


銀以外の原料で鋳造されたチェン貨幣は、通常のチェン貨幣と同じ大きさだが、重さは軽い。表面には都市名と刻印の代わりに模様が刻まれている。記念硬貨として、または古代の人々が信じる悪霊を防ぐ儀式などで使うことを目的としている。


このチェン貨幣は、普通のチェン貨幣よりも小さい。上と同じく儀式で使われた。


贋金

代金の決済に貨幣が用いられるようになると同時に、贋金作りの鋳造も始まった。王朝の発行する貨幣に贋金が流入すると、王朝の貨幣への信用も低下した。

贋金作りにはさまざまな方法がある。本物と全く同じ模倣品を新たに作ることもあるが、古代における一般的な贋金は、品質の劣った材料で作られ、表面を銀メッキすることで、より価格の高い銀に見せかけている。しかし内部は錫、銅、鉛である。

古代の石碑「マンラーイサート」には、贋金を作った者に対する刑罰が次のように刻まれている。

金、銀、銅、貨幣刻印を偽造した者は死刑に処し、家族を逮捕拘束すべし。その方法を知る者及び贋銀を偽造し使用した者は死刑に処すべし。命を奪わない場合は財産を王家が没収する。(以下訳略)


参考文献
ナワラット・レーカクン著 「貨幣 バーツ 硬貨 紙幣」 2004年第3版

訳注:ここにチェン貨幣の一覧がある。